ヘルメットをしていると、赤ちゃんが頭をぶつけた時に安心です

0歳からの頭の形クリニック表参道神宮前院で月曜日を担当している阪本です。

ヘルメット治療を受けていらっしゃる親御さんから、よく題名のようなことを伺います。
寝返りやお座り、ずり這いにハイハイ、ひとり立ちや伝い歩きの開始と、目が離せない赤ちゃんの成長を見守る上で、確かにヘルメットを被っていると思わぬ拍子にコッツンをしたとき、意外と本人が号泣するほど痛がらなかったりしてホッと胸を撫で下ろした経験がある親御さんは少なくないと思います。
しかし、本当に安全なのでしょうか。
どのくらい安全なのでしょうか。
実は明確な答えを持ち合わせておらず、返答に窮することも多々あります。

例えをあげましょう。
前回のブログで私は昨夏のパリ五輪に触れましたが、今回も同大会のスポーツを例にお話ししてみたいと思います。
『パリ五輪のボクシング競技』と聞くと、1番に思い浮かぶのはトランスジェンダーについての話題かもしれませんが、私が気になったのは、女子はヘッドギアをつけていたのに対して、男子はつけていなかったことでした。

【参考写真、資料 男子ボクシング】
出典Olympic official HP: https://www.olympics.com/en/news/paris-2024-olympics-boxing-all-results-in-mens-63-5kg

【参考写真、資料 女子ボクシング】
出典Olympic official HP: https://www.olympics.com/en/news/paris-2024-olympics-boxing-lovlina-borgohain-schedule

気になって調べてみると、オリンピックでボクシング競技は1904年から採用され、1912年ストックホルム大会以外全てのオリンピックで開催されてきたようです。
余談ですが2012年ロンドン大会から女子もボクシング競技が行われるようになり、これによってオリンピックの全競技が男女開催するに至った歴史があるようです。
私個人としては2012年ロンドン大会で村田諒太選手が金メダルを取ったことがとても記憶に残っており、その時にはヘッドギアを装着していた映像が記憶に強く焼き付いていたのですが、パリ五輪では男子ボクシング選手の表情があまりにもよく見えすぎていて強烈な違和感を感じました。

一見ヘッドギアは頭部を守るという意味で非常に有用に感じます。
特に頭部に強い衝撃が加わるスポーツではなおさら必要ではないかとさえ思われてきましたが、実は最近の研究では逆効果の可能性があることが議論されるようになってきました。
2000年代、ボクシング競技選手が引退後に若年性認知機能障害を発症することがとても話題となり、頭部の保護方法がスポーツ業界のみならず学校の体育授業においても議論されるようになりました。
学術的な論文を含めた議論の中で、ヘッドギアは頭部・顔面・耳介などの裂傷の発生頻度の低減、また血液暴露への予防の観点で有用とされる一方、ヘッドギアを装着したアスリートは誤った安心感から、よりリスクの高い行動を取りやすくなる(頭を前に出すなど)こと、ヘッドギアにより横方向の視野が制限され、パンチを受けた時に頭部への回転外力が加わりやすく衝撃を避けにくくなること、ヘッドギアのサイズ分標的が大きくなり打撃が当たりやすくなることなどから、むしろヘッドギアの装着により脳震盪・打撲後脳損傷の発生頻度が上がっていると結論づけられるようになりました。

これらを受け、国際ボクシング協会は2013年に男子ボクシングにおいてヘッドギアの使用を禁止する決定を行い、オリンピックでも2016年リオ大会から男子はヘッドギアを着用せずに試合をするようになったようです。
一方女子やジュニア世代は、未だヘッドギアの安全性の方がデメリットを上回ると判断され継続着用となっているようです。
国際ボクシング協会の発表では、結果的に試合中に起こす脳震盪の頻度(いわゆるダウン)は減ったとも言われています。もちろんまだまだ議論の余地はあると思いますが、頭部を守る上で必ずしもプロテクターがあれば安心とは言い切れないと強く感じるに至りました。

これらのことから、ヘルメットがあればある程度打撲を許容しても良いという考えは正確ではないことがお分かりいただけると思います。
もちろん、傷がつくような打撲をした時(机の角にぶつけるなど)にヘルメットをしていると頭皮に傷がつかないことは大きなメリットだと思います。しかし本人が痛がらないからと行動範囲を自由に広げると、思わぬ強い衝撃を受けてしまうことも起こりかねません。
ヘルメットをしていても、打撲すると脳は揺さぶられ、症状がわからなくても微細なダメージは残るかもしれません。
痛がらないからとほっておくのではなく、ヘルメットをつけているときこそ何度も本人が頭部をぶつけてしまうことをなるべく避けられるよう、注意 いただくのが良いと思います。

表参道神宮前クリニック 医師  阪本 浩一朗