0歳からの頭のかたちクリニックの要職者4名の座談会の様子を全4編にわたって配信します。0歳からの頭のかたちクリニックにはどういう特徴があるのか、中で働いている先生方がどのような考えをもってやっているのかなど是非、0歳からの頭のかたちクリニックをご理解いただく一助にしていただけると嬉しいです。 登場する先生方は以下の4名です。

大賀 正一 医師

こども医療相談担当医師・小児科責任者

五味 玲 医師

外科責任者・院長

西巻 滋 医師

研究室長・院長

小室 広昭 医師

理事長・医師

④小児科からも紹介される信頼の診療体制──早期発見が鍵となる赤ちゃんの頭のかたちの最適な対応とは

0歳児からの頭のかたちクリニックで日々診療にあたる医師にお集まりいただき、それぞれの専門的視点から治療やクリニックの取り組みについて伺うインタビュー。第4回目となる今回は、受診するタイミングや今後このクリニックが果たしていくべき社会的役割について話を聞きました。

   

──0歳からの頭のかたちクリニックは、地域の小児科からの紹介も非常に多いそうですね。紹介先として選ばれる理由についてはどうお考えでしょうか。

 

小室:患者さんに当院を紹介してくださるのは小児科の先生が多いですが、やはり学会などの活動をしっかり行い医療業界全体に貢献してきたことや、大学教授も経験しているご高名な大賀先生や西巻先生が当院におられることを信頼して下さっている先生も多いのではと感じています。患者さんの声でも「この先生が診療に当たってくださるから来ました」と実名を挙げられるケースも多くあります。このように地域のクリニックの方々からの信頼度は抜群に違うと感じています。

 

大賀:関東圏や関西圏以外のエリアでは、広域でネットワークが出来上がっていることが非常に重要だと思います。たとえば私が診療にあたる広域の九州・沖縄や中国・四国では、各県に1つ大学病院があり、その病院が県全体の稀な病気も致死的な病気もすべて診ます。そして、各県の大学と小児科医会との結びつきも強く自然に地域連携ができていることもあり、この良い取り組みは自然と広がっていくのではないでしょうか。

   

──では紹介の場合、小児科や産婦人科の先生方には、どのタイミングで勧めてもらうのが良いのでしょうか。

 

小室:おそらく皆さん同じご意見だと思いますが、頭の変形に気づいたら早めにですね。早くて悪いことはありませんし、万が一早すぎた場合は予防法などを指導して一度お帰しします。その後もフォローして再び診察することもできますし、なんと言っても早期受診が一番大事なので、ヘルメット治療を行うにせよ経過を見るにせよ、躊躇せずに早めに相談に来ていただくことが大事です。もし受診を躊躇して1ヶ月過ぎてしまうと、その後に治療を開始しても重症度のレベル4がレベル1にまで改善する可能性は小さくなってしまうのでそこは迅速にいきたいところですね。クリニックには安心できる先生方が揃っているので、来ていただければ病気かどうかも判断できますし、必要な治療指導もできます。そういうことに尽きるのではないでしょうか。

 

西巻:小児救急を専門にしているある医師が、講演で小児救急の見分け方を尋ねられていましたが、その医師は「親御さんが小児救急だと思ったら小児救急なんです」と答えていました。ですから、頭蓋変形についても親御さんが気にするのであれば、迷うことなく専門の医療機関に行くべきだと思いますし、小児科のクリニックの先生方も迷うことなくご紹介いただければと思います。

 

大賀:私もそう思います。生後1か月健診、2か月のワクチンデビュー、4か月健診、この最初の100日までは本当に大事な時期なので、そこで困ったり不安に思った時に相談できるところが元気なことどもたちとそのご両親にも、もっと必要だと思うんですね。特に最初のお子さんはお母さんもご家族もみんな試行錯誤で悩むと思うので、当院のようなクリニックの意義はとても大きいのではないでしょうか。

 

五味:私は東京で診察するようになってまだ数ヶ月ですが、お母さんがかかりつけ医に相談した時に、「心配だったら行ってみたら」と言われるケースが意外と多いと感じています。ですから、クリニックの先生や産婦人科の先生にお伝えしたいのは、親御さんが心配されたことに対して「大丈夫だよ」と言わないで欲しいということ。「頭の形なんて放っておけば治りますよ」と言っている方はおそらくまだ結構いらっしゃるはずなので、「ご両親が心配されているようでしたら一度相談に行かれたらどうでしょうか」と促して、任せていただきたいですね。

 

大賀:五味先生の言われた通りで僕もそう思います。小児科医の立場からすると、やはり「病気ではない、大丈夫ですよ」と言ってあげたいところではあります。ですが本当にそうかというと、健診で一度しか診ていない状態で断言することはできません。ですから、フォローアップできるという意味ではこのクリニックの意義は非常に重要だと思います。小児科医は、大学病院などで命に関わる病気もたくさん診ているので、「それぐらい(=頭のすこしの変形)のことは気にしなくても」と言いがちかもしれません。それでは小児科医が親御さんに寄り添っていることにならないということを、この年齢になって思い知らされました。

   

──ここでそれぞれの先生方のご専門と、クリニックの中でのご担当領域の視点からお話をお伺いしたいと思います。まず西巻先生にご質問です。エビデンスに基づいた診療には普段どのように取り組んでいらっしゃるのでしょうか。また、圧倒的な実績から、どのように医療業界へ貢献していこうとお考えでしょうか。

西巻:東京日本橋と表参道神宮前という東京の2つのクリニックのデータは非常にボリュームが大きいので、それをまとめるだけでもかなりインパクトのある研究結果になると思います。生まれる前から生後早期の赤ちゃんまで、それぞれの段階でどのような養育で関わっていけば頭蓋変形の程度を軽くすることができるのか、変形をなくすことができるのかを考えてデータを見ています。 お母さんの栄養も影響してきますよね。これに関してDOHaD理論(注)というものがあります。若い女性たちは栄養の偏りや痩せすぎな傾向、そして紫外線を避ける「美白志向」も広まっており、外出時に日焼け止めを塗ったり、屋内で過ごすことが多くなっています。こうした生活スタイルの変化により母子ともに日光を浴びる機会が減り、体内で作られるビタミンDが不足しがちです。ビタミンDは、日光に当たることで皮膚で合成される大切な栄養素で、カルシウムの吸収を助け、骨の発達に深く関わっています。 ビタミンD不足の状態で長時間同じ姿勢で寝かされていると、頭の骨がやわらかい乳児では、頭の一部に圧力がかかりやすく、変形(いわゆる「絶壁」や「斜頭」)が進行しやすくなると考えられています。 それから出生体重の影響も大きいですよね。日本は今、10人に1人は2,500グラム未満で生まれる低出生体重児ですが、赤ちゃんの体格も頭蓋変形の要素として関わってくるのではないかと思っています。頭蓋形状のデータを検討しますと、後頭部の斜頭症の程度と前頭部の斜頭症の程度がパラレルなのかそうではないのか、耳介の位置の偏位が斜頭症の程度とパラレルなのかそうじゃないのかなど、いろいろと調べたいことはあります。 3〜4ヶ月の赤ちゃんは頭の真後ろが変形していますが、3歳ぐらいになって小泉門が上がるにつれて変形も少し上に上がります。ですから同じ評価方法で良くなったと言っていいのかどうかということも、データを照会しながら見てみたいと考えています。この領域においては、研究したいことが数多くあると日々感じています。
(注)DOHaD理論は、赤ちゃんがお腹の中にいる時や生まれてすぐの環境(栄養、ストレス、生活習慣など) が、 将来の 生活習慣病(糖尿病・高血圧・肥満など)や慢性疾患のリスクに関係している、という理論です。

   

──子ども医療相談担当医師、小児科責任者をお務めの大賀先生にご質問します。小児科医の視点から、赤ちゃんの頭の形のケアの意義や普段の診療の際に意識されていることをお聞かせください。

大賀:小児科医や新生児科医は、頭の形だけでなく、発達やそれ以外のいろいろな形態の問題についても細かく早く気が付いています。しかしお母さんは、「病気ではない」と言って欲しくて病院に来ていますよね。どこで病気の線を引くのかは難しいところですが、そこできちんと客観的に3Dで撮影をして、治療効果を判断していくこのクリニックのスタイルは非常にいいと思います。もう1つは、お母さんたちに過度な心配や病気だと意識させず、この状態でいいのではないかなあ、という温かい雰囲気の中で子育てができることが重要だと思います。クリニックでは、そういったところを少しでもサポートしていきたいですね。

   

──次は外科責任者をお務めの五味先生にお尋ねします。外科的な観点から、赤ちゃんの頭の形をしっかりと診断して治療することの重要性、中でも特に五味先生が大切にされていることがあれば教えてください。

五味:外科的なことを言えば、病的な頭蓋変形を絶対に見逃さないために、診断の精度をいかに上げるかという点は我々が考えなくてはいけないことだと思います。それと同時に、お子さんにいかに負担をかけずに精度を上げるかというところも考えていかなければなりません。その辺りは、うまく工夫ができればと思って今自分でもいろいろ考えているところです。 話は少し逸れますが、親御さんから聞かれてまだよく分からないのが「頭の変形がある人が大人になった時にどうなるのか」ということです。「最終的に何が困るんですか?」とよく聞かれますが、どの程度の人がどうなっていくかということはまだよく分かっていない段階です。実はそういうデータはまだないので。当クリニックだけでなく大学病院やその関連病院で成人などを診ている医師とも合わせて、頭の変形によって最終的にどんな影響があるのかを調べることも、我々の責務なのではないかと思っています。

   

──では小室先生、全体を統括されている理事長というお立場から、チームのバランスや各診療科の先生方の専門性をどう生かしているのかお聞かせください。

小室:それぞれの専門によって見方はやはり変わってきます。たとえば私は小児外科医として長年子どもを診てきましたが、それでも一部は小児科にお任せするというスタンスでやってきたので、どうしても抜けてしまうところはあります。ですから、外科系と小児科系のバランスをうまく取りながらやっていけたら組織としてグレードアップできるのではと思っています。各専門の診療科の先生方のお力を結集して、ご家族が更に満足できる体制にしていきたいと考えています。

   

──今後このクリニックが果たしていくべき社会的な役割についてはどうお考えですか?また、臨床面・研究面で今後注力していきたい領域があれば教えてください。

 

大賀:成人には多くの健康診断がありますが、子どもに関してはそれがまだうまく確立されていません。今後は小児におけるヘルスチェックの在り方が非常に重要になってくると思いますので、その中でこのクリニックが果たす役割は大きいのではないでしょうか。あたまの形態だけでなく、機能や極めてまれな脳腫瘍など医学の進歩で治療がすごく変わりつつある子どもの病気が数多くあります。そういったものにまで少しでも役に立てるように日々の診療から発信して、それを望ましいヘルスチェックになるよう活動していくことが私たちの願いであります。

 

西巻:同じ意見です。私は周産期領域で、たとえば産婦人科の先生や助産師さん、それから赤ちゃん訪問をしてくれるような人たちなど、今は少し手薄なところにこの知識が浸透し、意識が向かってくれればいいなと思います。

 

五味:繰り返しになりますが、やはり病的な頭蓋変形をいかに正確に早く診断できるかという点に関して、今後いろいろな経験を積むことで方法論を確立できればと思います。また、これも繰り返しになりますが、変形が将来的にどのような影響が出てくるかという点もデータを交えて明示して、矯正治療の有用性をきちんと示せればと思います。

 

小室:私も五味先生のご意見に近いですが、歪みが将来どんな問題を起こすかということはやはり一番大事なので、それをヘルメットによって予防できれば理想です。もちろん病気を治すことが一番ではありますが、これから100年生きるような人たちの健やかな未来のために、少しでもお役に立てればという気持ちです。そのためには、手術の有無に関わらず、やはり早く発見した方がいいと思うんですね。先日、五味先生の手術で変形していた眼窩が治った方を見て驚いたんですよ。やはりそれは早期に発見して早く手術をしたからだと思っていて。おそらくタイミングが遅かったら変わらないですよね。そういう意味ではすごく印象に残った手術だったので、早期発見の大切さを実感しています。

   

──最後に、赤ちゃんの頭の形に悩むご家族、そして地域の医療関係者へメッセージをお願いします。

 

西巻:少しでも頭の形でお悩みであれば、どうぞお気軽にご受診ください。相談を受けた医療関係者の方は、ぜひお気軽にご紹介くださると嬉しいです。

五味:私も同じように、何か心配なことがあったらお気軽に受診していただきたいですし、地域のクリニックの先生方も、親御様からご相談があった際にはぜひ当院をご案内ください。

大賀:親御さんに対しては、今おふたりの先生が言われたことと同じです。小児科の開業医の先生方は、忙しくて大変な状況下でゆっくり話もできず、そして自分も頭のかたちの専門ではないというジレンマがあるかもしれません。そんな時に、専門家がいる当クリニックへの受診をお勧めいただければ、お母さんたちも安心してまたご紹介いただいた小児科に戻っていただけるのではないでしょうか。

小室:早期受診が一番大事なので、親御さんに対してはやはりそこを強調したいですね。少しでも気になることがあるようであれば、赤ちゃんの未来のために早く受診する。小児科の先生方は、もし頭の形のことを相談されたら、軽く流さないで真摯に向き合っていただきたいですね。

  これで、4回にわたってお届けしてきた座談会の様子は終了となります。
今後も「0歳からの頭のかたちクリニック」の取り組みに、ぜひご注目ください。  

第1回: https://baby-helmet.com/?post_type=news&p=1138&preview=true

第2回:https://baby-helmet.com/?post_type=news&p=1140&preview=true

第3回:https://baby-helmet.com/?post_type=news&p=1141&preview=true