0歳からの頭のかたちクリニックの要職者4名の座談会の様子を全4編にわたって配信します。0歳からの頭のかたちクリニックにはどういう特徴があるのか、中で働いている先生方がどのような考えをもってやっているのかなど是非、0歳からの頭のかたちクリニックをご理解いただく一助にしていただけると嬉しいです。 登場する先生方は以下の4名です。
0歳児からの頭のかたちクリニックで日々診療にあたる医師にお集まりいただき、それぞれの専門的視点から治療やクリニックの取り組みについて伺うインタビュー。第1回目となる今回は、0歳からの頭のかたちクリニックが設立された社会的な背景や0歳からの早期ケアの重要性について話を聞きました。
小室:私はこれまで小児外科医として多くの赤ちゃんの手術に関わってきました。小児外科のイロハを教わった教授に勧められたことがきっかけで0歳からの頭のかたちクリニックに参加し、理事長をやりながら現場の診療もやっています。 これまで心臓以外の手術にはほぼ携わってきて、新たな領域として参加していますが、実際にやってみると奥が深いですね。 クリニックには関連する各診療科の名だたる先生方に参画いただいているので、相乗効果を発揮した診療が可能になりますし、その結果多くの知見も重なっていき日々進歩していることを感じます。実際にほとんどの赤ちゃんの頭のかたちが整っていくので癒されますし、ご両親からも喜ばれるので大変やりがいのある仕事だと感じています。
五味:私は長年、自治医科大学のとちぎ子ども医療センターで、小児脳神経外科医として多くのお子さんの脳と脊髄の治療に携わってきました。2025年3月に退職し、4月から東京日本橋の院長を拝命して外科責任者も兼任しています。 小児脳神経外科医ということもあり、頭蓋変形(注)の治療があることは以前から知っていました。また、自分自身も斜頭で顎関節症や姿勢といった日常生活での悩みがあって興味が湧き、自治医科大学で取り組むようになったのです。その中で、ジャパン・メディカル・カンパニー社が作る日本製のヘルメットを扱い始め、それがきっかけで0歳からの頭のかたちクリニックをお手伝いするようになりました。
(注)頭の形が歪むこと
大賀:九州大学小児科に40年ほど在局し、2025年3月に退職して0歳からの頭のかたちクリニックにも関わらせていただいております。現在はこども医療相談担当医師・小児科責任者というお役目です。 最初は自分が理事長を拝命していた日本産婦人科・新生児血液学会で、初めてこの頭蓋変形の話を聞き、実際に勉強したところ、知らなかったことがたくさんあったことに気付かされました。 0歳からの頭のかたちクリニックに参加したきっかけは、五味先生の存在も大きかったですね。以前からよく存じ上げていたので、これは間違いないなと。それから、さまざまな同世代の他科の先生方とご一緒に診療にあたるようになってから、毎日が驚きの連続です。こどもたちは変化が激しいからこそ、他科の先生たちと共に考えるという小児科医の原点を改めて実感しています。 この歳になって「小児科医は小児科医の弱点を知るべし」との思いで、勉強させてもらっています。また、長年新生児マススクリーニング(注)の拡大などに携わってきたので、小児科医としてどのように乳児のヘルスチェックを進めていくかを考える活動の一環として、その重要性を認識しているこの頃です。
(注)出生後間もない赤ちゃんを対象に、先天性代謝異常症や内分泌疾患など、理学的診察からは診断が困難な重症難治疾患を早期に発見して、予防と治療管理を迅速に開始することにより、発症を制御したり、心身の発達を助けることを目的に開始された集団検査
西巻:私は2022年から0歳からの頭のかたちクリニックをお手伝いするようになり、2025年1月より表参道神宮前の責任者を務め、同時に研究室長も務めています。出身は小児科で、中でも新生児を長くやっていたので赤ちゃんに接する時間が長かったというキャリアがあります。 定年で大学を辞める時、これまでやってきたこととは全く別のことをしたいと思っていたところ、ちょうど新生児医学会で頭蓋変形のセミナーを聞く機会があり、興味を持ちました。 実は最初は「ヘルメット治療は必要なのか」「本当に治るのか」と少し否定的な気持ちもありましたが、データを見たり手伝うようになってそれがすっかり変わりました。関わるようになって3年ほど経ちますが、今は少しでも多くの小児科の先生たちに向けて、そのような誤解を解く活動もしていきたいと思っています。
小室:赤ちゃんの頭の形の歪みで悩むご両親が増えてきている中で、適正に対応する医療機関がないということで、このクリニックが設立されました。現在は「適正な頭蓋健診治療を世の中に広げ、ご両親の悩みに寄り添いながら、赤ちゃんの健やかな未来の日常になるように」という理念で行っています。この先100歳まで生きるかもしれない赤ちゃんの将来に禍根を残さないよう、未来を健やかに過ごせるように、そういう気持ちで日々取り組んでいます。
五味:脳神経外科の立場から話をしますと、大きく2つの意味があると思います。1つはまず病気を見逃さないということ。頭の形が変形している場合、頭蓋縫合早期癒合症(ずがいほうごうそうきゆごうしょう)という本来であれば離れているはずの2つの骨がくっついてしまっていたり、複数の骨がくっついて変形する病気があります。小さいうちに分かれば簡単な手術で治る病気ですので、そういうきちんと治療ができる病気を見逃さないということ。生後2〜4ヶ月頃に見つかれば手術もだいぶ違ってきますから。 もう1つは、頭の骨はだいたい生後10ヶ月頃にくっつくので、遅くとも1歳半までに頭の形を治さないと、病気でなかったとしても矯正することができません。0歳でやらない限りは絶対に治すことができないので、0歳以外は考えられないということになります。
小室:頭が変形すると、それに付随して顔面などいろいろなところに変形が及んでくる可能性があります。そうならないためにも0歳でも特に早く治療をした方がいいですし、病的な頭蓋変形により手術が必要になる場合にも早期であれば低侵襲手術も可能ですし、手術後の目や眼球の変形などの改善も早期介入できるかによって全然違って来ると思います。ですので、まずは可能な限り早く診察を受けていただきその後の対応を相談することを我々は推奨しています。
西巻:私は新生児科医として周産期に関わってきたので、「0歳からの頭のかたち」とは言っているものの、それより前のお腹の中にいる時から赤ちゃんの頭のかたちへの影響は始まっているのではないかと思っています。たとえばお母さんのビタミンD、食事、それから生まれた後の養育の姿勢ですよね。抱っこをするかしないか、日光浴はさせるのか、母乳栄養なのか、混合栄養なのかそういうところからスタートしているのではないかと思うぐらいです。
大賀:日本は出生数の減少が叫ばれて久しいですが、わが国はこの20年の間に世界で最も安心して妊娠と出産ができる母体の管理と、世界で最も安全に新生児を管理できる国になりました。一般にはあまり知られていませんが、新生児の周産期の死亡率の低さは全世界でトップを維持しています。 そんな中、最近は新生児スクリーニングのように、病気の発症前に介入し、早期発見から一刻も早く治療しようというスタンスが進化しています。病気を治すのではなく、病気にならないようにしようという考えが広まり、こどもが少なくなっても気をつけることが増えてきました。こどもたちにとって、ご家族にとって、それがもたらす安心が幸せにつながることが小児医学と医療の理想です。そういった状況から、現在のように乳児の頭のかたちも注目されるようになったのではないでしょうか。テレビなどのメディア、街なかを歩いていてもヘルメットの乳児を見ることが多くなり、九州エリアでも実際に広がりつつあることを実感しています。
西巻:当院には、ご兄弟の繋がりやママ友から紹介されて来る方も多いですね。治療費は決して安くはありませんが、診療の姿勢なども評価してくださった上で、信用できるところだからということで受診してくださるように思います。
小室:確かに東京では「保育園で一緒のお友達がやっていて勧められて来た」という方も多いですね。ただ地域によってはまだ差があって、福岡では「ヘルメットを被っていると、病気なのではないかと白い目で見られるのでは」と心配している方もいらっしゃいました。今は少しずつ認知されてきているとは思いますが、関西も開院したばかりの頃はそうでしたし、やはり認知度も大事ですね。これから知られてくれば徐々に共通認識ができあがってくると思いますが、現時点では非常に地域による差があるように感じます。
五味:お子さんだけでなく、親御さん自身が頭蓋変形に悩まれて来られるケースも多いですね。欧米のデータでは、生まれたばかりの頃は軽症まで含めると30〜40%ほどは頭の形が変形しているという数字も出ています。近年は、少しずつ認知も広がりその30〜40%のうちで少しでも気になる方も来院されるようになったことが患者数が多いことに影響しているのかもしれません。ただ我々のクリニックに来られる方は、それなりの重症度の方が比較的多いと感じます。もちろん中には正常と感じる方もいらっしゃいますが、そういう方もたくさん来る中でまた別の病気が見つかることもあるでしょうし、裾野が広がるのは良いことなのではないでしょうか。
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